クリニック経営:資金計画の全体像と「運転資金」の罠

クリニック経営:資金計画の全体像と「運転資金」の罠

俊爽会グループのブログをご覧いただき、ありがとうございます。 俊爽会グループ、スーパーバイザー(SV)の堀尾です。

今回から「資金計画と融資の押さえどころ」についてシリーズでお届けします。


「良い医療を提供すれば、数字は後からついてくる」

確かにその通りですが、経営の初期段階において資金が先に尽きてしまうと、理想の医療を継続すること自体が不可能になってしまいます 。

クリニック経営の相談で、最も多い失敗理由は何か。
それは 「医療の質」でも「努力不足」でもありません。

資金計画です。

しかも、多くの場合、
「知らなかった」のではなく
「甘く見ていた」ことが原因です。

本記事では、
これから開業する医師、あるいは開業直後の医師が
必ず理解しておくべき

  • 資金計画の全体像
  • そして最も危険な落とし穴である「運転資金」

について解説します。


1. 開業時のキャッシュフローの注意点

まず、知っておいていただきたい注意点です。

診療報酬が支払われるのは約2か月後になります。
そのため、クリニックは開業後しばらくの間、
売上があっても現金が入らない状態で経営を始めることになります。

また開業する前から、家賃は発生します。交渉次第にはなりますが、遅くとも内装工事が始まる頃には家賃を支払う必要があります。

さらに開業1か月ほど前にはスタッフを雇い、研修を始めますから、人件費が発生します。

医薬品や医療機器に関しては卸と交渉し、診療報酬が支払われる月の支払いにすることが可能ですが、一部の保守費用やリース費用は支払いが発生する場合があります。

まとめますと、患者さんが少なく、現金が入らない状態の中でも

  • 家賃は発生します
  • 人件費は発生します
  • 保守費用やリース料は落ちます

これらは、資金計画を作る際に必ず考慮する項目です。


2. 資金計画は「2階建て」で考えなければならない

資金計画を一つの塊で考えると、必ず失敗します。
理由は簡単で、性質が違うお金が混ざるからです。

① 初期投資(設備・内装・機器)

これは一度きりの支出です。

  • 内装工事
  • 医療機器
  • 家具・什器

② 運転資金(医院を生かし続けるお金)

こちらは毎月、確実に減っていくお金です。

  • 人件費
  • 家賃
  • リース料
  • 広告費
  • 医師自身の生活費

多くの失敗は、
①ばかり考えて、②を後回しにした瞬間に始まります。

「最初は赤字でも、そのうち患者さんが増える」
と多くの先生方は考えます。

これは間違いではありません。

ただし、ほぼ全員が考えていないのが、

「その赤字を、何ヶ月耐えられるか」

という視点です。

赤字で始まること自体は問題ではありません。
問題は、
赤字が想定より長引いたときの準備がないことです。

しかし、これは当然のことで、人は不安しかなければそもそも開業をしません。うまくいくという楽観的な予測が無ければ、数千万も借金をして開業は出来ないのです。

従って、せめて資金計画を練る際には、意識して最悪の場合を想定して考えていく事をお勧めします。


3. 高額投資の判断基準は「理念」ではない

誤解を恐れずに言います。

理念は大切ですが、投資判断の基準にはなりません。

投資判断の基準は、常に以下の3点です。

① 立地と収益モデルが一致しているか

  • 駅前高家賃 → 高回転・効率重視
  • 郊外低家賃 → 滞在価値・専門性重視

立地と合わない機器は、
どれだけ高性能でも利益を生みません。


② 稼働率が現実的か

重要なのは「価格」ではありません。

  • 月に何回使うのか
  • その数字は根拠があるのか
  • 想定の半分でも返済できるのか

稼働しない機器は、借金を生む置物です。


③ 返済できるか

「やりたい医療」と
「返せる投資」は、完全に別物です。

不採算のやりたい事だけを追求すれば、必ず資金はショートしてしまいます。


4. 内装は「見せるため」だけではなく「回すため」

内装で多い失敗は、
患者さん目線だけで考えてしまうことです。

もちろん印象は大切です。
しかし、もっと重要なのは、

  • 動線
  • 収納
  • 作業効率
  • スタッフの疲労度

ここを軽視すると、
静かに、しかし確実に経営体力が削られます。


5. 最大の罠は「運転資金が足りないこと」

開業後、最も多い相談がこれです。

「思ったより患者さんが来ない」
「資金が減るスピードが早い」

しかし、これは開業初期では当然のことです。
月100万円単位で貯金が減っていく事に、多くの先生方は非常に焦ります。


なぜ「3ヶ月分」は危険なのか

よく言われています、

「運転資金は3ヶ月分あれば大丈夫」

これは、
すべてが予定通り進んだ場合の理論値です。

現実では、

  • 患者数は想定より少ない
  • 広告効果は遅れる
  • 競合は想像以上に強い

このズレが積み重なります。

資金が足りなくなると、再融資も厳しくなり

  • 広告を止める
  • 人を減らす
  • 判断が短期的になる

このように、
最もやってはいけない判断を選び始めます。


6. 運転資金は「半年〜1年」が理想的

私が一貫して勧めているのは、

  • 最低:6ヶ月分
  • 理想:12ヶ月分

の運転資金を、
最初から資金計画に組み込むことです。

これは決して贅沢ではありません。

冷静さを保つための安全装置と言えるでしょう。


まとめ:資金はクリニックの「血液」

資金は、クリニックの血液です。

血流が止まれば、

  • 理念は実行できず
  • 医療の質は維持できず
  • チームは疲弊します

資金計画とは、

「良い医療を、長く続けるための設計図」

です。

次回は、
この設計図を現実に変えるための
「金融機関に選ばれる資金の考え方」
について解説します。