クリニック経営についてのお話です。私が開業した2012年は、すでに都心では飽和状態で、今後のクリニック経営はどんどん厳しくなっていくであろうと言われていました。
勤務医の先生がイメージされている、開業すれば、患者さんが何もしなくとも集まってきて、経営知識が無くてもクリニックが繁盛した、そのような時代はすでに終わりを迎えていたのです。
それから12年が経過し、状況はさらに悪化し3重苦の時代に入りました。すなわち、①診療報酬の改定による点数の下落(仮にプラス改定でも、消費税、賃上げ、物価高に対応せず相対的に低下)。②人口減少による患者数減少(2045年には約7%減少)。③クリニック店舗増加による患者数減少(年間約1000件の店舗増加)です。
これからの開業は、正しい経営知識は必須であると言えます。勤務医時代に気づかないクリニック経営の難しさがあり、大抵の先生は経営知識を学ぶ事なく開業されます。経営とは「スタッフ体制を整え、集患して売上が実現する」仕組みを作ることになりますが、盤石な経営基盤が無ければ、ご自身の考える理想の医療を提供する事も叶わないでしょう。ただ漫然と「開業しました」というクリニックは淘汰されていくことになります。選ばれるクリニックとそうでないクリニックの2極化がより顕著になってくることが予想されます。
そこで今回は多くの先生が開業後に悩まれる3つの問題についてのお話です。
1.人材マネジメントの問題
勤務医時代は同僚の医師や看護師などのスタッフが辞めたら、すぐに代わりの人が配置されたかと思います。医師が離職すると場合によっては診療制限がされることもあるかもしれませんが、看護師や事務員では余程のことが無い限りは、そこまでは至らないでしょう。しかしクリニックは病院と違って余剰人員を多く確保する事は難しいのです。したがって看護師や、事務員が数人辞めてしまっただけでも診療に影響が出てくる場合があります。またその採用に関しても、先生自身で募集して雇用していく必要があります。当然スタッフからの不満への対応も院長先生が対応します。「看護師は医師の言うことを聞いて当たり前」と思っていると痛い目を見ることもあるでしょう。辞めたら人手が足りないので、多少問題がある人でも雇い続けることもあるかもしれません。実は開業して一番大変なのは、人の管理、マネジメントなのです。募集してもなかなか人が来ない、スタッフが思った通りに動けない、スタッフ同士で揉めてしまう、その他、契約や給与、休みの問題などなど様々な問題が起こります。
2.集患の問題
特に開業初期は、患者数が少なく非常に不安になる事もあります。1日に数名しか来ない。下手したら一人も来ないという事もあるのです。しかし、患者さんが来院せず売り上げが上がらなかったとしても、家賃などの固定費を払ったり、スタッフへの給与は払っていかなければなりません。診療圏調査による想定患者数より少なく、貯金がどんどん減っていくのが不安だという声もよく聞かれます。また、集患に関しても、具体的にどのように集患すれば良いかわからない、広告費用をかけても効果が出ない、良い口コミが少ない、または悪い口コミが広まってしまうなどの問題もよく起こります。
3.医療以外の業務に忙殺される
クリニックの仕事って楽だと思っていましたと言われる先生がおります。確かに病院勤務のように急患対応は少ないかと思います。しかし、病棟患者さんが落ち着いている時に医局でゆっくりなどといったことはありません。開業初期の患者数が少ないときはゆっくりできますが(金銭面で胃が痛くなりますが)、軌道に乗ってきた際には常に外来患者対応をしますから、診療時間中はとても忙しいです。病院外来の患者数よりもかなり多くの患者数を対応する事になります。そして開業医にとっての診療業務の仕事というのは、全体の一部でしかなく、診療後に経営の仕事が待っています。スタッフ指導、レセプト業務、窓口現金管理、勤怠管理、給与振込、税務管理、集患業務(ホームページ管理、広告作成、ブログ作成など)、医薬品在庫管理、医師会業務など様々な業務があり、開業医の約2割は過労死ラインというデータもあります。
末永く診療を行っていく事が、結果的に地域住民の方への為になりますので、仕組みを整え、持続可能なマイペース診療を心掛けていきたいところです。